どうでしょう?
今年で71回目。567チーム、約4500人が襷(たすき)をつなぐ駅伝がある。トヨタ自動車の社内駅伝である。戦後の混乱期に職場の団結を図ろうと始まった駅伝が「100年に一度の大変革の時代」を迎えた自動車業界で生き続けている。その理由は何か――。
■集まった観衆は、なんと3万4000人
スタートの1時間も前からスタンドの応援合戦は熱を帯びていた。工場名や先進試作部、エンジン製造部などと書かれた色とりどりののぼり旗が林立する。応援団が太鼓をたたき、法被姿の各部門の役員らがスタンドから檄を飛ばす。
12月3日、愛知県豊田市のトヨタスポーツセンターに3万4000人の観衆が集まり、4500人の激走を見守った。トヨタ最大の社内スポーツイベントだという。参加チームは昨年より22チーム増え、567チームとなった。
8人で30.54キロを走る「一般ロング」と、8人で22.47キロを走る「女性」「シニア」「ふれあい」の4つに分かれて競う。一般ロングの優勝タイムは例年1時間34分前後だから1キロを3分少々のスピードでアップダウンがきつい周回コースを走る。かなりハイレベルの戦いだ。工場や事業所の選抜チームが競う一般ロングのランナーたちはまるで実業団駅伝に出そうな韋駄天(いだてん)ぶりを発揮する。
今年は高岡工場組立部Aが1時間34分47秒で優勝し、トヨタ工業学園Aが5秒差で2位に入るというデッドヒートを演じた。3位は堤工場車体部A、4位は本社生産管理部A、5位は元町工場機械部Aと続いた。工場や本社の部門ごとの強烈なライバル意識がぶつかり合う。
■聖火台で燃えていたのは「水素」
1998年までは国内の事業所、関係会社だけの参加だったが、99年に米国の現地法人が初めて参加し、海外勢が加わった。今では海外の12事業者が参加し、中国、インド、南アフリカ、台湾、インドネシア、米国、フランス、トルコからランナーが集まるようになった。ウォーミングアップ場では国名が入ったユニフォームを着た外国人社員が日本人に交じってジョギングしていた。観客席では海外から家族ずれでやってきた外国人社員らが同じユニフォームを着て、現地法人で働く日本人社員と一緒に応援した。
国内の参加者は「手弁当」での参加だが、海外からの参加者は研修名目で会社からの補助が出ているという。
聖火台で燃えていたのは「水素」。岩谷産業の担当者が水素タンクを競技場近くに設置し、聖火台まで水素を供給した。水素は燃えても無色透明なので、炎を着色。競技中はずっと薄緑の炎が揺れていた。トヨタは水素を使う燃料電池車、MIRAIを販売し、燃料電池車の普及を目指している。電気自動車ブームに押されている燃料電池車だが、「水素も負けないぞ」と社員に訴えているかのようだった
世界のトヨタといえども安泰ではない。常に戦いだ。そこには安らぎはないのか?